All’s Well That Ends Well…

2010年12月8日の夜から9日の夜にかけての24時間は、わが家の歴史に鮮やかに残ることでしょう。


9日は、高校最終学年(シニア)の娘にとって、最も落ち着かない日だということが予想されていました。専願していたコロンビア大学の合否が、午後5時に発表されることになっていたからです。

米国での大学入学選考システムは日本とはずいぶん異なります。また、変化も激しいので、毎年受験生や親は振り回されます。

通常の書類提出締め切りは12月末か1月で、春に結果が分かります。けれども、早め(11月頃が締め切り)に提出し、早めに結果を受け取るいくつかのシステムがあります。「early decision」は、いわゆる「専願(単願)」で、「合格したら他の大学には行かず、ここに来る」と約束するものです。「early action」は、合格しても他の大学に申し込むことができます。また、幅のある期限内に書類を提出でき、出した順に選考して結果を出す「rolling admission」もあります。これらは大学により異なります。

早めに結果が分かったほうが、後の高校生活を楽しめるのは間違いありません。けれども、第2希望や第3希望の大学が「専願(単願)」だったり、エッセイを書かねばならぬ10月や11月時点では「どこにしてよいか決められない」という人もいます。

ジャズ、ミュージカル、美術館、という大好きなものが集まっているニューヨーク市にあり、しかも憧れのオリバー・サックス博士が教えていて"How We Decide”の著者ジョナ・レーラーなどが学んだコロンビア大学で神経科学を学ぶ、というのが何年も前からの娘の夢でした。ですから娘にとってコロンビア大学が「early decision」なのはまったく問題がなかったのです。問題は、不合格か、あるいは「deferred(合格でも不合格でもなく、通 常の書類選考の山に加えられる)」だった場合です。

決定するのは「人」です。好みや、そのときの心理状態や、わけのわからない要素が必ず絡んでいます。どの大学でも、「この子ならどんな大学でもトップに立てる」という子が落とされ、「なぜこの子が?」という子が合格するものです。子どもたちがその「不条理」を最初に味わうのが米国の大学合否かもしれません。ですから、あまり1つの大学に惚れ込まないようにさせたり、入れば楽しめそうな場所をそれとなく薦めたり、あれこれ気を紛らわせるのが母としての私の役割だったわけです。それは、あんまり感謝されない、面白くない役割でしたが…。

まあ、そんなわけで、8日の夜は緊張感が高まっていました。

そんな夜に、仕事上の付き合いで出席したベンチャーキャピタルのクリスマスパーティから戻って来た夫の具合が悪くなり、短い間ですが意識を失ったのです。(まったくしらふなのに)突然倒れて、名前を呼んでも意識が戻らず、いびきをかきはじめたときには『あぶない!』と思いました。

救急車で近くの総合病院のERに運ばれ、最初のうちはすぐに帰宅できそうだったのですが、次々にいろいろな些細なものの不安な症状が出て来たために、入院してCTスキャン、心臓超音波撮影、血液検査、などの精密検査をすることになってしまいました。

私は夫の仕事関係者に連絡を取るためにいったん午前3時頃に戻りましたが、朝起きたときに母親しか戻っていなかった娘はショックを受けていました。学校に行ったものの、大学の合否発表への不安と父親の病状を案じる気持ちで、娘の心中は1日中嵐のようだったそうです。

できることであれば、大学の合否発表がある前に退院してもらいたかったのですが、夕方になっても主治医は見当たらないし、シフトを変わったばかりのアジア系移民の担当看護師は、のらりくらりです。

ついに発表時間の午後5時になってしまいました。

5時まで学校でジャズアンサンブルの練習をしている娘は、学校のメディアルームのコンピューターでチェックすることになっています。この時点まで私は緊張していなかったのですが、iPhoneが鳴るまでの5分間の緊張と「ハロー!」という元気な第一声で合格を確信したときのほっとした感じは、やはり「受験生の親」の気分でした。

さて次の問題は、夫の検査結果と、この日中に帰宅できるかどうかです。

ところが、何度訊ねてもナースは検査結果を見つけてこようとはしないし、主治医を探してくれようともしません。「今日、帰れるのですか?帰れないのですか?それだけでも教えてください」と詰め寄ったら「たぶん、帰れないと思う」というので、いったん戻って娘に夕飯を作ってからまた病院に戻ることにしました。許可を得るためにナースステーションらしき場所に行ったら、誰かが「そこで電話をかけている女性が主治医のDr. B」と教えてくれました。そこで、Dr. Bが電話を終えるまでじっと30分ほど待ち、声をかけると、「これから脳卒中の患者のところに行かなければならないけれど、次にはご主人のところに行くから待っていてください。今日中に帰れると思います」との話。帰宅はやめてふたたび夫の部屋に戻りました。

主治医のDr. Bは30代前半のしゃきしゃきした素敵な女性です。ブラウン大学で神経科学を選択したとのことで、娘に貴重なアドバイスをしてくださいました(「ブラウン大学はとってもいいよ。おすすめ」というのはちょっと手遅れでしたが)。後で娘にアドバイスを伝えると、「なるほど!」と頷いていました。会わせたかった人生の先輩でした。

夫にとっても、「過密スケジュールを見直せ!」という警鐘になったようです。

夜はミートローフを作るつもりで、1日前からオーガニックのミンチ肉を冷蔵庫で解凍していましたが、夫は病院食、娘はひとりぼっちで私がセットしておいたご飯と前日のみそ汁、私は夫の病室でKindバー

まあ、このようにあれこれあったのですが、結果的に娘は来年行く大学が決まり、夫は就寝前には帰宅でき、波乱で始まった9日の終わりはなんとか3人一緒にめでたく終えることができました。

その日に日本から届いたのが、「ほぼ日」の土鍋です。

箱を開けて、家族全員で「うわ〜」と感激のため息。

「パーティしないとね」と娘。作ってみたい料理の数々と、招待したい友人たちの顔が次々と浮かびました。

All's Well That Ends Well…(終わりよければすべてよし)

 

 

8 thoughts on “All’s Well That Ends Well…

  1. あらーっ、大変だったんですね。10年生の親として、そして夫婦ともども中年後期に差し掛かってきて、健康管理の話題が絶えなくなってきた家庭の主婦として、なんだか一生懸命読んでしまいました。終わりよければ、で、ほっとしました。
    お嬢さん、コロンビア合格、おめでとうございます。マサチューセッツとNYCは、遠からず近すぎず、ちょうどよい距離ですよね。そして、こんなに若いうちから、何が勉強したいのか、どの先生の講義を受けたいのか、しっかり考えているのは、うらやましいです。ウチの10年生は、日々の宿題をこなしていく以上の知的好奇心は、まだ無いみたいです。頭は良いのに。(泣)
    余談ですが、渡辺さんのBlog,数日前、水泳のことでLinkしてもらってから読み始めました。面白いです。ここにコメントするために、とうとう、3年ぶりくらいに、パソコンに日本語フォント入れたんです。ウチの両親とのメールは、短いので、iPhoneの日本語機能で間に合ってたんです。(あはは、ひどい娘ですね。)

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  2. お嬢様、第一志望の大学合格、おめでとうございます!
    それにしても、本当に嵐のような一日でしたね。
    どうして重なるときにはこんなに重なるのか…
    でも、本当に、All’s Well That Ends Well.
    12月のこの時期に大学が決まると、あとが楽ですよね!
    うちの娘の第一志望校はearly decisionがなく、しかも発表が遅めだったので、ずっと落ち着かなかったです。本人は、願書を出したあとはケロッとしていましたが…
    ともあれ、本当におめでとうございます! また楽しみが増えますね!

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  3. 由佳里さん、大変だったんですね。
    でも嬉しい喜びとセットで本当に良かったですね。
    お嬢さん、おめでとうございます!(私の祖父の兄弟もその昔コロンビア大学を卒業。東京裁判で通訳をしていました!何だかとっても親しみを感じて嬉しい!)
    ご主人さま、体を大事にしてくださいね。由佳里さんがついているから大丈夫ですが、何かあって気付けるうちが大事ですよね。今日はゆっくりお休みですね。本当にお疲れ様でした。

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  4. 哲子さん、
    ありがとうございます。
    大叔父様がコロンビア大学卒とのこと!コロンビア大学では代々同じ本を読む伝統があるようです。そういう意味では、本当に繋がりがあるのでしょうね!

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  5. 容子さん、
    ありがとうございます。
    わが家は、ずっと本人がやりたいことを応援していただけで、こちらから積極的に薦めたものはほとんどありません。
    大学の選択は、本当に彼女の意思が100%。私たちのインプットは0です。
    私は大都会が駄目な人なので、やはり子どもは親とは違うのだな、と再認識させられました。

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  6. はちこさん、
    ありがとうございます。
    娘の親友が、はちこさんのお嬢さんと同じ大学希望で、やはり最後まで待たされることになります。
    みんな、それぞれの理由でその大学を選ぶので、やはりその夢を叶えてあげたいものですよね。
    これから家族団らんを楽しみます。

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  7. ご主人のこと、さぞや心痛も大変だったと拝察いたし
    ますが、お嬢様の第一志望、それも一流大学の合格
    おめでとうございます。
    学校から習い事まで、すべて送迎が必要なアメリカの
    母親って本当に大変そうだな、と思います。
    長く熱心に続けられたスイミング、お嬢さん自身の
    意思による方向転換、いろいろな花も嵐も踏み越えて、
    全力疾走の子育ても一段落、とほっとされているかと
    存じます。
    日本の大学入試は、ペーパーテスト点数主義ですから、
    模試とかで知識量を計測し、偏差値表を睨んで出願
    すれば、試験日に発熱でもしない限り、まあまあ
    思い通りの結果が出せます。
    アメリカはそう単純にいかず、大変そうですね。
    そのかわり日本ではあまり免疫のないまま、様々な
    世の中の不条理を体験するのは就職試験の段階で、
    渡辺さんがなさったようなモラルサポートが必要です。
    いい年をした大人に..なんて正論を振りかざして
    いると、子どもを引きこもりにしたりする危険も
    あり、年齢的に成人だからといって社会システム的に
    おこちゃまのまま大学生になってしまうことに個人で
    抗えない、と割り切ってサポートするしかありません。
    アメリカの方が早く大人になって、職業選択のとき
    にはもっと安心して本人に任せられるのではないかと
    想像します。
    とにかく、おめでとうございます。

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  8. ママンさん、
    ありがとうございます。
    大学の選択はすっかり娘任せだったのですが、10月頃になってから、駄目だった場合の別の大学を考えてもらうために、大慌てでいくつか大学を訪問したりもしました。
    結果的には希望の場所に入ることができましたが、SATもまったく同点、学校の成績もほぼ同じ、希望も神経科学、という娘が「双子」と読んでいる男子生徒はdeferredになってしまいました。数学では1年飛ばして、ハーバード大学のエクステンションのクラスを受けていて、ストレートAかA+の子です。
    そうかと思うと、水泳の元チームメイトで、皆が「入ってから授業についてゆけないだろう」とびっくりするような子が、水泳の実力だけでアイビーリーグの大学に合格しています。
    でも、成績だけで通用しないのが現実社会ですから、それを受け入れ、自分のできる範囲でやりたいことを貫く姿勢が必要なのでしょう。
    そういった意味では、ママンさんがおっしゃったように、米国は早期に自立できるかもしれません。
    これから卒業まで、なるべく家族団らんの時間を楽しもうと思っています。

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