11月8日の大統領選挙投票日の11日前になって、オクトーバー・サプライズが起こった(オクトーバー・サプライズについてはニューズウィークの記事をどうぞ)。
FBIが、ヒラリー関係のEメールについて新しい証拠物件が出てきたので調査を開始すると上院下院議会のリーダーに手紙で通知したのだ。内容は明らかになっていないが、ヒラリーの長年の右腕(血が繋がらない娘、とまで言われている)フマ・アバディーンと別居中の夫アンソニー・ウィーナー元米下院議員のEメールだと言われている。ウィーナーは、性的なツイートを女性に送って職を失ったのだが、最近になってまた女性に性的なテキストメッセージを送ってカムバックの機会を失っている。
この内容がヒラリーとどう関係があるのか、それが重要なのかどうか、調査がまだ始まっていないので、それすらわかっていない。つまり、「疑い」だけが報道されるという、ヒラリーにとって非常に不利な状況だ。
私が取材で知り合った民主党代議員がヒラリー陣営から直接得た情報では、これらのEメールは、ヒラリーが送ったものでも、ヒラリーが直接受け取ったものでもないという。
司法省は、この時期に選挙に影響を与えるような発表をしないよう指示したが、FBI長官ジェイムズ・コミーは、それを無視して行動したようだ。
オクトーバー・サプライズは、選挙に近くなればなるほど影響が強い。コアの支持者たちは動かないが、これまであまり注意を払っていかなった浮動票はそのときの感覚で選ぶ傾向が強いからだ。
2016年の大統領選挙は、ほんとうにゴシップ雑誌のようになってしまった。
Cakesで『やじうま観戦記』という連載を始めさせていただいたときには、日本に住んでいる人にわかりやすいよう、やじうま的に楽しめるものにしたいとピッチした。
しかし、2016年の選挙は、あまりにもエンタメ要素が強くなってしまった。それに暴力性も強くなった。
メディアは、女性の権利、LGBTの権利、人種差別、税率、公約実現に必要なコスト、実現した場合の経済的な影響、保護貿易なのか自由貿易なのか、その影響は?といった具体的な分析をせず、「各候補の公約が実現したら、このようなアメリカになる」というわかりやすい姿を描くことをしなかった。そのかわりに、候補の人間性だとかスキャンダルをセンセーショナルに語り続けた24時間ニュースメディアの罪は重い。
ジョージ・W・ブッシュが大統領になったことで、イラク戦争が始まったという歴史から、メディアも国民も何も学んでいない。
まだ結論は出ていないが、多くの意味で、非常に残念な大統領選挙だ。
Cakesでの連載を電子書籍にするにあたって、読み返し、振り返りコメントをつけていったのだが、しだいに泥沼状態になっていく様子がわかっていって、自分でも面白かった。
途中から興味を興味を抱いた方にも、ずっと追っていた方にも、「あのときは、こうだったのか!」という驚きや発見があると思う。
ぜひ、お読みいただきたい。
*この電子書籍とは別に、真面目なかたちの大統領選挙の本も執筆中です。この本とは異なる内容ですので、どちらもお楽しみいただけると思います