才能を殺さない教育 第三章 子供の発達に合わせた学校教育(1)

レキシントン公立学校の小学校に子供を通わせるアジア系の親からよく耳にする苦情は、彼らの祖国の教育に比べとくに算数などの進行が「遅れている」ということである。「公立学校の評判が良いから来たのに、やっていることが生ぬるい」、「うちの子は公文でもっと先のことをやっているからもっと高度の数学を教えて欲しい」といったものが多い。レキシントン公立学校では基本的に小学校1年生を1年早く始めるような「飛び級」は認めていない。飛び級をしている子はたいてい他の町ですでに「飛び級」をしてから引っ越してきた者である。それでも幼稚園の年齢のわが子を小学校1年生にしようとしていた親を知っている。その子の天才ぶりを耳にタコができるほど聞かされたが、彼女が高校2年生になった今、レキシントン高校がオファーする生物学のAPクラスすら受講していない。

その子だけではない。幼稚園のころからボストン近郊の公文式教室(日本人経営のものではない)に通っていたアジア系の子供たちのうち、高校生になった現在、数学で突出した能力を発揮している者はほとんどいない。それどころか、小学生のころクラスで最も優等生とみなされていた者が、完全に能力別編成になる高校では最上級のクラスに入れないこともある。それとは対極的に、公文に通わなかったために同級生に比べると計算が苦手で、「私は算数ができない」と言っていた子のほうが「勉強しなくてもわかる」ほど数学が得意になっている。上記の母親が小学校1年生のときに「文字が読めない」と馬鹿にしていた白人の少女は、高校で外国語を2ヶ国語選択し、3つ目は自己学習している。かつての「天才少女」よりはるかに優れた語学の才能を発揮しているわけだ。

早期教育に熱心な親たちの影響で「小学校1年生のうちの子は読書レベルが遅れている」と心配する友人に、私は「小学校の成績は将来の成功だけでなく、中学校、高校の成績とも無関係。今の時期は好きな本を親が読んでやればそれでいい。そのうち続きが知りたくて自分で読むようになるから」と何度も繰り返している。

後に才能を発揮する子供たちにとって最も迷惑なのは、早期教育をしている子供たちと比較されて「私は勉強ができない」と自信を失ってしまうことである。また、早期教育をされる子にとっては、せっかく生まれつき持っている能力を早期教育によって摘み取られてしまうことと、大切な思春期に「私は勉強ができない」と人生に絶望してしまうことである(下記を参照)。

むろん、小学校のときからずっと完璧な成績を維持している子もいる。それはもともと非常に知能が発達している子か、あるいは睡眠時間を削って勉強している子のどちらかである。もし、11歳くらいまで詰め込みをしなかったのならば、これらの子は睡眠時間を削らずに優秀な成績を取る子に育っていたかもしれないのだ。

Jay N Giedd博士などの文献*を読み、レキシントン公立学校を取材し、子供たちの成長を追った結果、私は、子供が持って生まれた才能を殺さず、将来幸せな生活を送るためには、「中学校までは詰め込み教育をしてはならない」と確信するようになった。

レキシントン公立学校では小学校、中学校、高校の3つの学校で学問レベルが非常に異なる。それは、子供の発達に合わせているからである。

小学校以下の学校教育で最も大切なのは次の3点である。
1)「学校は楽しい場所」であり、「学ぶことは楽しい」と感じさせる。
2)好奇心と自分で考える癖を奨励し、努力と想像力を評価し、自信をつけさせる。
3)社会的なルールを学び、社交性を身につける。

やってはいけないことは、
1)高速計算
2)暗記
3)テストによる成績評価(と親が子供同士を比べること)

「こんなことで将来大丈夫なのか?」と憤る親がいるが、心配しなくてもレキシントン高校に入ったとたん突然学問レベルは高度になる。各学年の科学と歴史で大学レベルの内容を教えるAPクラスがあり、それらのクラスでは、日本の進学校よりはるかに難しい内容をものすごいスピードでこなさなければならない。研究もしなければならないし、論文も書かされる。

この(生ぬるい)小学校と(厳しい)高校の間に勉強の仕方を学び、勉強する癖をつけるのが中学校なのだ。
暗記や計算などのテクニックを身に着けるのはこの時期からで十分、というよりも、中学までは詰め込み教育は「やってはいけない」のである。

*ボストングローブ日曜マガジンの「How the push for infant academics may actually be a waste of time – or worse」という特集記事によると、National Institutes of Mental Health (NIMH)の研究者が5歳から19歳までの子供の大脳皮質の厚さとIQスコアの関係を継続的に調べた結果、「非常に優れた頭脳」のカテゴリーに属す子供の大脳皮質は、平均的な頭脳の子供に比べると、遅れて成熟することを発見した。大脳皮質の厚さがピークに達する年齢が、平均的な頭脳の子供が8歳であるのに対して、非常に優れた頭脳を持つ子供の場合は11歳か12歳であったのだ。研究グループの1人Jay Gieddは、グローブ紙の取材に対して、「これは"兎と亀"の物語のようなものです。2歳-これは馬鹿馬鹿しいレベルですが-で本を読めない多くの人々の多くは、2歳で本を読める子供たちに追いつくだけでなく、彼らを超えるということです」と言っている。
テンプル大学のKathy Hirsh-Pasekは、このグローブ紙の記事で、カードを使って計算や綴りを1歳児や2歳児に教えるような早期教育は、neurological "crowding"という現象により正常な脳の発達をかえって妨げるという意見を述べている。これは、将来もっと創造的なタスクのために保存されているほうがよい脳の部分のシナプスを過剰な情報で"混雑"させてしまう現象だという。
これらの学者の情報については、さらに「洋書クラブ」のこの記事をどうぞ。

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