日本の新型コロナウイルス対策の現場が伝わってくるノンフィクション『新型コロナからいのちを守れ!』

新型コロナウイルスについての根拠がない情報と推論が、まるで真実のように世界中で広まっている。それが、パンデミックを抑えて人命を守ろうとする専門家たちの努力を妨げ、失われなくてもすむ命が数多く失われている。実に恐ろしいことだ。

人間は、自分が知らないことを理解したがるものだ。理解できないことを、自分が納得できる情報に置き換えたくなるのも人間の性だ。2020年に全世界に広まったCOVID-19のパンデミックは、その人間の性を悪い意味で強化したと思う。そのひとつが、専門家への懐疑心や、偽情報だ。

「実際に何が起こっているのか知りたい」と思うことそのものは悪いことではない。そういう人読んでもらいたいのがこのノンフィクションだ。2019年に武漢の生鮮市場で発生した未知の感染症の時から注意を払い、世界的に注目された豪華客船「ダイヤモンド・プリンセス」での集団発生でデータ分析をした理論疫学者の西浦博氏が初期から現在までに何が起こったのかを説明してくれている。

体験談としての語りなので、専門家が初期に経験した混乱や、未知の敵との戦いへの興奮なども伝わってくる。それと同時に、現場の大変さや辛さもわかる。専門家は、自分の健康や家族を犠牲にして公衆のために働いてくれるものなのだということも。

西浦氏の語りだけでは読者に理解しにくい専門用語や構造、時間的な流れなどが出てくるが、そのたびに共著者の川端裕人氏が丁寧に説明してくれている。

専門家がこれだけ頑張ってくれているのだから、私たちも、私たちに出来る範囲でパンデミックを収める努力をしていきたいものだと思わせてくれる。

【情報公開】川端裕人氏は私の友人ですが、それ抜きで本当にいい本だと思います。
私は大昔に大学病院勤務をしていたのですが、人命にかかわる大きな出来事があると、ふだんはあまり仲良くしていない仲間も一致団結して自分の時間を犠牲にして仕事をしたものです。その結果命を救ったのに、それがご家族に理解されず、かえって非難されたりしたこともあります。そんな経験を思い出させる部分もあり、現場を知らない方にはぜひ読んでいただきたいと思いました。

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