ウェブ時代の本とメディアのゆくえ

私は、初代Kindleが400ドルくらいしていた頃に購入した初期ユーザーで、その後も新しいバージョンが出るたび買っているので、手元には、初代、二代、三代の3機種が揃っています。購入した電子書籍の数は、現時点で240です。マックにもiPhoneにもiPadにもキンドルのソフトウェアが入っていますので、Kindleを使わなくても、同期してどこでも続きを読み続けることができます。


米国でもベテラン(ヘビー)ユーザーのひとりだと自負する私は、日本が電子書籍に関して遅れをとっていることに業を煮やして洋書ニュースやツイッターで電子書籍に関して語ることが多かったのです。けれども、最近では日本でもいろいろな動きが見られるようになりました。

今でもいろんなことは思うのですが、日米では業界のシステムも異なるし、「まあともかく、頑張って」という態度で行方を見守っている状態なのです。

出版業界やメディアの動向は、活発であっても一般人の目につきにくいものです。そして、理解もしにくい。その一部を覗き見することができるのが、以下の2冊の本です(他にも多くありますが、米国在住ゆえに、お送りいただいた本しか読んでおりません。また、最近は献本をいただいても忙しすぎて読めていない状況で、申し訳ありません)。

 

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「生き残るメディア 死ぬメディア」は、ジャーナリストのまつもとあつしさんが、「文化通信」編集長の星野渉氏、ボイジャーの萩野正昭氏、ドワンゴの小林社長、GyaOの川邊健太郎氏、電子書籍「AiR」の堀田純司氏などを取材して書かれたものです。実際に新しい方法で成功している方々の言葉が聴けるところが興味深いところです。

この本の良いところは、著者のまつもと氏自身がこの分野に深い興味を抱いており、読者の立場で業界プレーヤーたちに質問を投げかけていることです。ですから、大手マスコミの記事からは見えないところが見えてくる利点があります。

私がしみじみ感じたのは、日本の業界の方々が考える「電子書籍」の条件とか映像の未来が、非常に日本独自のものだいうことです。

日本の市場だけを満足させるだけで出版やメディアが生き残ることができれば、別にガラパゴスであっても良いと思うのです。

あるいは、海外のユーザーを説得できるほど魅力的なものであれば、日本独自でもぜんぜん構わないし、そのほうが海外で流行っているものを真似るよりも海外進出成功の可能性は高いと思います。

しかし、現実は著者のまつもと氏自身が書いておられるように、プラットフォームのうえでは、すでにアマゾンやアップルという黒船が既に日本に侵略しています。なのに、日本独自の成功例、あるいは未来への戦略が、それを覆し、さらに米国のユーザーを魅了するものとは思えないのは残念です。

「生き残るメディア 死ぬメディア」は、現在の日本の出版・映像ビジネスの混沌とした状況を覗き見させていただく本だと思います。そして、読者が自分自身であれこれ考えるための本であるとも思います。

 

次は「ブックビジネス2.0」です。

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前述の「生き残るメディア 死ぬメディア」は、実際にビジネス展開をしている方々を取材したもので、そこに面白さがあったわけですが、この本の良さは、日本の新しい本の未来を考え、実践活動をしているいわゆる「ヴィジョナリー」たちが、それぞれの言葉で語っているところです。

津田大介氏の語り口はブックビジネスを知らない人にも入り込みやすいもので、これを冒頭に持って来たのは正解と言えるでしょう。そして、電子書籍時代の図書館のありかたや、著作権やライセンスに関するクリエイティブ・コモンズなど、日本だけでなく外国の情報も含め、多様な面をカバーしています。バランスがよくとれている本だと思いました。

電子書籍の時代の出版がどうなるのかを想像するために役立つ具体的な内容も豊富でした。

*** *** *** *** *** ***

電子書籍とかメディアに関しての私の立場は、「作り手」ではなく「読者」です。

その立場からは、電子書籍は本質的には紙の書籍とそう異なるとは思っていないのです。電子書籍を240も蓄えた私ですが、紙媒体の本はそれ以上に読んでいます。

これが、アマゾンのKindleを支えているヘビーユーザーたちです。我々に一致するのは、読書への情熱です。面白そうな本があったら、(読む時間がなくても)入手せずにはいられなくなる「病的な執念」と呼ぶべきかもしれません。我々は、日本の業界の方々が重視している「ソーシャルリーディング」には、ほとんど興味はありません。キンドルの下線は「うざい」と嫌っているくらいです。我々にとっての「ソーシャルリーディング」は、読後に実際に意見を交わすことなのであり、読んでいる途中に他人の意見に邪魔されることではないのです。

 

ユーザーの立場から言わせていただくと、どうしても読みたいものを作り出せば、お金を払って読む人はいるのです。(もちろん潜在的読者に知ってもらうためのマーケティングと入手を可能にするプラットフォームが重要ですが)。けれども「読んでも読まなくてもよいもの」であれば、どんなにすばらしいガジェットを作っても、プラットフォームを作っても消えて行くでしょう。

それが「生き残るメディア」と「死ぬメディア」の差なんじゃないか、と無責任に思ったのでした。

2 thoughts on “ウェブ時代の本とメディアのゆくえ

  1. 書評有り難うございました!
    プラットフォーム運営者からすると、「どうしても読みたいもの」を一本釣りしていくのは効率が悪いですし、また出版社はそれを嫌います。Amazon Kindleに対抗するのであれば、包括で書籍のラインナップを整えないと厳しい、というのが基本的な考えです。
    そして、ソーシャルリーディングは、読書が好きな人ほど否定的なのもよく分かります。クラウド化の先にある話ですし、時間も掛かるでしょう。どちらかというと、SNSは楽しむけど本は読まない層を、本の世界に誘う機能と言えるかも知れません。

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  2. まつもとさん、
    包括で書籍のラインナップを整える、という点ではおおいに納得です。
    ソーシャルリーディングについても、「誘う機能」のひとつとしては良いと思っています。
    ただ、日本の業界プレーヤーの方々が目指している電子書籍の成功のモデルというか、そういったものに、「読者」としての私がまったく魅力を感じなかったのが残念でした。
    Kindleは、最初高かったし、機能も原始的でしたが、それでも「これは便利そうだ。欲しい!」と思わせました。本好きを誘惑する方法を知っていたのです。
    なんやかやいって、アマゾンは「本好き」の心理を恐ろしいほど理解しています。創業のきっかけにしても、Kindleにしても。それが彼らの成功の秘密だと私は思っています。それが欠けていると、やはり本当の本好きを魅了できない。本当の本好きを魅了できない本の世界は、やはり消えて行くか、まったく別のものになってしまうだろうと思うのです。
    私が最も共感を覚えたのは、「文化通信」の星野氏の意見です。特に「電子書籍は横組でもよい」という部分です。登場する方々の中では、最も「本好き」の心理を理解されていると思いました。
    全体的に、まつもとさんの情熱やエネルギーが伝わってくるのが素晴らしいと思いました。

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