オバマ大統領の医療制度改革に対する反発は、羊の皮をかぶった「人種差別」である

世界で最大の医療費を費やしながらも無保険者の割合は先進国で最大。毎年値上がりする医療保険は、個人事業のわが家では月額12万円程度になっています。これでは年収が1千万円を超える中流階級でもいったん職を失うと無保険にならざるを得ません。この状態で深刻な疾病に罹患したら、財産をすべて失い、ホームレスにもなりかねません。

徹底的に崩壊した医療保険制度ですが、この改革に手を出した政治家はすべて致命的な火傷をするとみなされています。有名な例がクリントン大統領夫妻です。当選したばかりのクリントン大統領が妻のヒラリーを起用して試みた医療制度改革は、共和党右派の激しい攻撃に合ってついに断念せざるを得なくなりました。国民は共和党のダーティな戦略に洗脳され、次の総選挙で民主党は多くの議席を失いました。

この危険な医療制度改革をオバマ大統領が再び試みています。
政治的には不利でも、国民のために行わねばならない、という使命感からです。
勇気ある行為ですが、ふたたび共和党右派はこれをつぶしにかかっています。

もっと不安なのは、クリントン時代よりも激しい怒りを噴出しているTea Partyデモ(米国の独立戦争勃発寸前、サミュエル・アダムスが率いるグループが英国の植民地政策に反対して紅茶をボストンの港に放り込んだBoston Tea Party事件から名前を借りている)です。

これを観ていて、私は娘にこう言いました。

「オバマの『社会主義』に反対する彼らの意見は表層的な言い訳であって、実は人種差別を根底にした白人の不満の噴出にすぎない。本来であれば彼らの奴隷にすぎない黒人のオバマが大統領として自分たちの上に立つことがどうしても受け入れられないのだ。たとえ本人が認識していないとしても、それは厳しく自問していないから。社会主義を恐れている人がいるとしたら、それは白人優先主義のプロパガンダに洗脳されただけ」

すると昨日のニュースでカーター大統領が私と同じようなことを言ってくれました。そう思っていてもなかなか言えないのがクリントン大統領の立場(ヒラリーが現役の国務長官ですから)、それをはっきりと言ってくれたカーター大統領には拍手喝采です。カーター大統領は「極左」だと軽く無視される傾向があるので、効果は期待できませんが…それでも誰かがはっきり口にするべきことです。

追記:

この現象はなにも黒人への差別に限ったことではありません。

このTea Partyに参加しているのは、基本的に「アングロサクソンは生まれつき他の人種よりも優れている」という信念以外には誇りにできるアイデンティティがない人々です。彼らは、社会経済的に優位な地位をしめていたマイノリティのユダヤ系に支配されることを恐れたドイツの白人(ゲルマン/アーリア人)たちであり、80年代に日本がアメリカ経済を侵略することを本気で恐れて日本製の車を破壊したアメリカ人たちなのです。彼らが今恐れているのは、「オバマがもたらす社会主義」ではなく、オバマ大統領が率いる黒人たちが白人の彼らを支配する世界の到来なのです。

彼らの被害妄想はホントの本気です。だからよけいに「馬鹿な奴らだ」で済ませられないと思います。

ところで、ホワイトハウスは「人種差別」を否定していますが、これはごく当然の対応です。これを訴えると重要な医療制度改革から横道にそれてしまいますし、被害者意識をあらわにすると彼を支持している白人まで敵に回すことになります(ハーバード大学のゲイツ教授の事件でも明らか)。つまり政治的に百害あって一利無しなので「人種差別カード」は使わないようにしているのです。それゆえカーター大統領の発言を非難する声は民主党サイドからも聞こえてきます。でも、私はあえてカーター大統領の率直さをたたえます。

2 thoughts on “オバマ大統領の医療制度改革に対する反発は、羊の皮をかぶった「人種差別」である

  1. 由佳里さんのこうした記事は
    ニュースから断片を集めて半・理解している私にとってはいつも素晴らしい総括になっています。ありがとうございます。
    それにしても本当に憂慮すべき状態で残念です。オバマ大統領が対話を訴え、人々もようやく変わってきたかなと思いましたが、まだまだこうした偏狭な人たちがたくさんいるんだなと驚きました。保険制度反対という隠れ蓑を与えてしまっただけに今後が心配です。アメリカ国民一人一人がものごとをしっかり冷静に見れるといいのですが。
    昨日ニュースで来年のMAの保険のプレミアムが平均10%増えると話していました(ラジオのNPR)。ここまで来ても人々は保険制度を変えようとは思わないのでしょうか。

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  2. こんにちは。
    いつもご愛読いただき[E:coldsweats01]、ありがとうございます。
    このあたりには理解ある方が多いので気がつかないのですが、ちょっと外に出るとぎょっとすることを口にする人がいて血が凍る思いをします。
    アメリカはいろんな意味で本当に広い国ですよね。
    カルトの信者に何を言っても聞く耳を持たないのと同様、彼らは保険を持たなくても、どんな目にあっても妄想から離れることはないような気がします。

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