2012年東北訪問記、その7「自分の選んだことを愛する」

気仙沼と陸前高田では、これまでご紹介した他にも、多くの素敵な「働く人」とお会いしました。誰からも、仕事への「愛」が滲み出ていて、その愛のパワーに魅了されました。

人もそうなのですが、味見をして惚れ込んでしまった食べ物もあります。

気仙沼の波座(なぐら)物産さんの塩辛がそれです。


子どもの頃から大好物でけっこういろいろ食べ比べているのですが、波座さんの新しい工場で味見をさせていただいた三種類の塩辛には、心からメロメロになりました。

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噛みしめるうちに、ワタの濃厚で深い旨みが舌にじわじわしみこんでくるのです。添加物がいっさい入っていないので、人工的な旨味に邪魔されず素材の味を楽しめます。

食い意地がはっていると思われたくなかったのですが、人が見ていない隙をみて再び(やや多めに)口に入れました。

この味の秘密が「ほぼ日」の『東北の仕事論』で詳しく説明されていますのでそちらをご覧になっていただきたいのですが、陰干し、ワタのみ、無添加、熟成、が宣伝文句だけでないことを実感しました。ことに、昔ながらの家庭の味を再現している濃厚熟成の「めんどうくさい塩辛」は最高です。

 

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インターネット限定商品の最高級品『波座』を持つ糸井重里さん。

 

これを、アメリカに持ち帰って、暖かいご飯にかけて食べたい…。

そう願ったのですが、「樽の中で最低30日寝かすので、今お売りするのはないんですよ」とのこと(これは訪問した11月1日時点でのことで、現在は販売しておられます)。

がっくりしてしまいました。なんといっても最高に「めんどうくさい塩辛」ですから、出来上がるまで時間がかかるのですね。

最良の陰干しの条件を見いだすための試行錯誤などを語る塩辛職人の大原富夫さんの笑顔と弾んだ声は、まるで自慢の玩具を見せびらかす子どものようです。それだけ、仕事に喜びを見いだしておられるのでしょう。

 

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塩辛職人(工場長)の大原富夫さん

 

専務の朝田慶太さんからも、製品への強い誇りを感じます。

 

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専務の朝田慶太さん

 

「自分の仕事を心から愛している人から、こういう味が生まれてきたのだ」

つくづく思いました。

*** *** ***

気仙沼と陸前高田だけではなく、その後訪問した仙台や南相馬市でも、こういった素晴らしい人々とお会いし、ポジティブなエネルギーを沢山いただきました。

 

でも、そういった方々と会ったとき、あるいはそういう方の話を読んだとき、感動や尊敬と同時に劣等感を覚える人も少なくはないようです。大きな社会貢献をしている人、音楽、スポーツ、芸術、学問で活躍している人に会うたびに、「私は努力が足りない。ダメな人間だ」という暗くてネガティブな思いが頭をもたげるというのです。

 

私にも、その気持ちはよく分かります。

初対面の人と会うたびに、必ずといってよいほど「この人はすごい人だ。私にはとてもできない」と思う部分を見つけるのですが、その努力をしていない自分を恥じ入ることも、よくあるのです。

でも、その後、私は自分にこう言い聞かせるのです。

 

1)でも、1人の人が全部をしているわけではない。

 世界で指折りのバイオリニストが同時にフィギュアスケートのオリンピック金メダリストということはあり得ません。全ての分野で第一人者という人は存在しないのです。

 

2)誰にも、短所がある。

 多くの人に感謝される社会貢献をしていても、家族から「もっと家のことを手伝ってほしい」と非難されている人はいます。世界のトップに立ったときも教養がないことに劣等感を抱き続けたアンドレ・アガシのようなアスリートもいます。

どんなに優れた人にも長所と短所があり、誰でも劣等感を抱いたり、落ち込んだりするのです。なのに、私たちが目にしているのは優れた人の長所のみであり、笑顔の写真だけなのです。

 

3)誰にも短所があるように、誰にも長所があるはずだ。

 優れた人にも短所があるように、「ふつうの人」である自分にも短所だけでなく長所があるはずなのです。そこを頑張ればいいのではないでしょうか。

 

4)同じ長所の人だけで世界が成り立っていたら困る。

 芸術家は心を満たしてくれますが、農業をしている人が野菜を作ってくれたり、漁師さんが海に行ってくれなければ、身体が飢えてしまいます。仕事に専念したからこそ出世したのに、よい家族にも恵まれた人は、家事や育児を担当してくれた伴侶の支えがある筈です。

 自分では才能がないように感じていても、素晴らしい才能を持っている人にはできない貢献を、どこかでしている筈なのです。

 

5)優れた人に刺激されたときには、「私も、自分にあった努力をしよう」と思えばいいのだ。

 みんながみんな同じ達成をする必要はないのです。自分の心が自然に指差してくれる方向で努力すればいいのです。そうしていくうちに、自分の良さを活かせること、喜びを与えてくれること、他人の役に立てること、といった特別な何かを得ることができるのでしょう。

 

仕事や伴侶に関して「私は運が悪いから…」とか「努力しても良くならない」と嘆く人は、他人と比較して幸福感がグラグラする傾向があります。「ラッキーな人」を真似して努力しても、もともと自分の情熱ではないので、うまくゆかないのかもしれません。

いろんな人に会った経験から、私は「自分で選んだものを愛する」決意が人生を良いほうに変えると思うようになりました。愛せなくなったときには方向を変えることが必要ですが、このときにも「他人と比べず、自分で選ぶ」ことが、とても重要だと思っています。

 

 

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気仙沼を訪問した翌朝、南三陸に現れた二重の虹。虹の足を見たのは、これが初めて。

 

 

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