「犠牲者」にならないための護身トレーニング

二年ほど前に娘がニューヨーク市にある大学に行きたいと言ったとき、私のリアクションは、「だって、危ないじゃない!」というものでした。けれども、娘は、「ニューヨーク市は、最近とても安全になっているのよ」と平然としたものです。

ニューヨーク市に住んでいたことがある夫の対応は、もっと冷静で実用的なものでした。

「田舎であろうが、都会であろうが、一人暮らしの若い女性への危険は存在する。親がその危険からずっと守ってやることは不可能なのだから、危険をいかに回避するのか、危険に遭遇したときにどう対応するのか、それを教えてやることのほうが重要だ」と言い、護身クラスを受けることを大学進学の条件にしました。


夫が選んだのは、彼の知人Erin Weedの紹介で見つけたIMPACT Boston。障害者をエンパワーするためのTriangleという非営利団体の補助機関で、受講者の半数近くが、ドメスティックバイオレンスやレイプなどのトラウマのサバイバーだということです。娘が受講したクラスにも、サバイバーと生まれつき腕がない女性がいました。

ピクチャ 3

IMPACTのトレーニングを受けるまでは、「親に言われたから」という感じで受け身だった娘ですが、一緒にクラスを受けたサバイバーの女性が自分にパワーを与えようとする姿勢に、初日から態度が変わりました。金、土、日の3日間の内容はかなりハードなもののようです。恐怖によって出るアドレナリンを使って記憶させ、そのようなシチュエーションになったら考えずに身体が対応できる、というものです。ですから、起こりえるリアルなシナリオをいくつも使い、緊張感の連続です。土曜日に帰宅したときには、無口になっていました。

日曜の「卒業式」では、私たち身内の前で、デモンストレーションがあります。突然後ろから襲われたりするシチュエーションは、あらかじめ「息をすることをお忘れなく」と忠告されていてもリアリスティックで怖いものでした。後で娘から、「涙ぐんでいる親が多かったね。でも、マミーは頭の中で反撃のキックしてたでしょう?」と呆れられました。実に当たっています。

この「護身トレーニング」が他のものと異なるのは、高度な武術や護身テクニックを教えるのではなく、「犠牲者」にならないことを教えることです。デモンストレーションのときに生徒たちの耳の横で「大丈夫、切り抜けられる」「状況を査定して」「キック!」とささやき続けるトレーナーの本職は、ドメスティックバイオレンスやレイプサバイバーの心理カウンセラーです。アドレナリンが出ているときにささやかれたこれらの言葉は、そういう状況になったときに頭に蘇るのだそうです。

またこのトレーニングでは、「危ない状況に自分を置かない」というレッスンもあります。怖いシチュエーションとセットで教えてもらうからこそ、身に付くようです。

男性のためのクラスや、障害者のためのクラス、学校やホームレスシェルターへの出張などもあります。トレーニングだけでなく、運営に深く賛同した組織ですので、ぜひお知らせしたいと思いました。

 

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