アメリカでの増改築体験:夫婦間のネゴシエーション

前にも書きましたが、アメリカでの自宅増改築は、家の持ち主が関わる範囲が大きいのが特徴です。

私にはそのプロセスがまったく想像できなかったのですが、増改築を体験した人たちと会って話を聞くうちに、少しずつ見えてきました。これは、情報を得るだけでなく、根本的に重要なステップでした。

その中でもアンとスティーブというご夫婦が一番大切なことを教えてくれました。

"Walter Gropius photo Gropius house Lincoln MA" by Jack E. Boucher - Library of Congress

“Walter Gropius photo Gropius house Lincoln MA” by Jack E. Boucher – Library of Congress

二人は、ワシントンDCの近郊でミッドセンチュリー・モダン様式の自宅を改築し、建築雑誌の特集に取り上げられたことがあります。けれども、それを楽しむ暇もなく、北部に引っ越しすることになったのでした。
その二人と一緒に、私たち夫婦は遠足とランチを計画しました。遠足は、前号で触れたドイツ人建築家Gropiusが暮らした家「Gropius House」の訪問です。

1934年、Gropiusは、英国の建築家Maxwell Fryの援助でヒットラーの支配が進むドイツから逃れることができました。そして、その後多くの建築家の助けを得て1937年にアメリカに移住し、ハーバード大学で教鞭をとったのです。このときGropiusが自分自身で建てて二番目の妻Isaと一緒に住んだのがGropius Houseです。この歴史的建築物はとなり町にあるのに、一度も行ったことがありませんでした。

遠足も楽しかったのですが、ランチのときに聞いた体験談はもっとインパクトがありました。特に、アンの次の忠言です。
「家を改築するのはとっても楽しいけれど、ストレスも大きいわよ。増改築がきっかけで別れた夫婦ってけっこういるから気をつけなさいね」

実は、まだ何も始まっていないのに、私たちはこの「ストレス」に飲み込まれそうになっていたのです。

夫は自分が好きなものや欲しいものがはっきりしている人です。
彼に比べると、私は欲求も好みもそれほど強くありません。ですから、これまでたいていのことは、「あなたがそんなに欲しいのだったら、どうぞ」という感じでやってきました。

増改築もそんな感じで進んでいたのですが、だんだんやるせない気分になっていたのでした。

夫はスタイル重視。
「2階の2部屋を取り除いて、1階のリビングリームを天井まで吹き抜けにする。新築した場所に行く部分は浮いているように見えるように透明のマテリアルを使って、僕のコレクションを置く場所はこのあたりで、僕のオフィスの床はアンティークの木を使って…..」という感じ。

私は機能性重視。
「配達物を届ける人が見えるように、私が仕事をしている場所から入り口が見えないといけない。料理をしながら仕事をするので、キッチン脇の電気パネルや洗濯機がある部屋をオフィスに変えるしかない。すると、洗濯機などを移動する必要がある。毎日の買い物、洗濯、料理、仕事が最も効率的になる動線を考えると、このような配置が理想的……」という感じ。

それぞれに違うところに目が行くのは仕方がないとして、互いに相手が「どうでもいいことにこだわりすぎ」と感じているのが態度に出てきます。

夫「1階に洗濯機と乾燥機を置く場所がないなら、僕の両親の家みたいに2階に移動すればいいじゃないか」
私「吹き抜けを作るために2部屋取り除いて、透明の廊下を作ったら、残りのスペースは今の半分以下になるのよ。洗濯機と乾燥機を置く場所なんかないじゃない」
夫「じゃあ、ガレージにでも置けばいい」
私「洗濯機を設置するためには、上下水道が来てないといけないのよ。ガレージには下水道は不要。上下水道の位置はプランを描く上ではすごく重要なことだから早いうちに建築士に相談しておくべきなのよ。それに、毎日のことだから動線が悪い所には置きたくない」
*** ***
私「物置スペースが足りないから、新築のどこかにスペースを作らないと……。ここはどうかしら?」
夫「僕のオフィススペースが削られるのは嫌だ。僕は広い場所が必要なんだ」
*** ***
夫「僕のオフィスの隣の部屋にミーティング用のテーブルを置いて、ライブのセミナーのときに使おうかな」
私「あの部屋はお客様が泊まるベッドルームってことになっているでしょ」
夫「ソファベッドを置いて、来客があったら泊まれるようにすればいいじゃない」
私「そういうことをすると、いつの間にか『物置』になっちゃう。それにソファベッドは寝心地悪いのよ。『ゲスト・ルーム』は『ゲスト・ルーム』のままにしてください!」
*** ***
私「私が絵を描いていた2階の部屋がなくなったら、私はどこで描けばいいの?」
夫「え?まだ絵を描くつもりなの?最近ぜんぜん描いていないじゃない」
私「最近はほかのことで忙しいからしていないけれども、これから絶対に描かないわけじゃない。それにかさばる画材をどこに置けばいいの?」
夫「どうにかなるだろう(と却下)」
私(苦々しく黙りこむ)『自分のスペースはそれほど大事なのに、私のスペースはどうでもいいのね……』
*** ***
夫「僕はみんながよく使うようなふつうの木材を床に使うのは嫌なんだ。ニューハンプシャーに古い建築物から来た木材を再加工している会社があるので、そこに見に行こう」
私「私は少々のことでは傷つかず、掃除をしやすく、有害な薬品がついていないグリーンな床材がいい。「バンブー(竹)」の床がいいみたいだから、ネットで最も評判がいい会社からサンプル送ってもらった」
*** ***

わが家の増改築計画は、もともと夫の主導で始まったものです。もちろん民主主義でフェミニストの夫ですから、すべてのステップに私を含めてくれます。でも、いざ私が具体的な提案や反論をすると(本人はまったく自覚がなかったと思いますが)不機嫌になっちゃうのです。

そして、「そんなのはできっこない」とか「それは今語り合うことじゃない」と即座に撃ち落とします。たぶん、鮮やかなコンセプトに「それは素晴らしい!」と乗ってこないで難癖ばかりつける私が「ネガティブ」だと感じていたのでしょう。

内外のデザインは彼の好みのミッドセンチュリーモダニストで決定しているようですが、私はどちらかというともっと近代的でスッキリしたデザインが好きです。それに、黙っていると私の心身の領域がどんどん侵食されていく感じです。

ですから、私のほうも夫の意見を即座に撃ち落とすようになりました。「あなたは、こういうことをしているのよ。わかってる?」という(とても良くないのですが、夫婦げんかでよくある)対応です。
その暗〜い意図に気づかない夫が押し返してきたときには、「それなら私に相談せずに自分で全部決めたら?」と話し合い放棄です。

アンとスティーブに会ったときには、こんなふうに増改築計画はちょっと険悪なムードになっていたのでした。

帰宅してから私は夫に冗談めかして(でも真顔で)こう持ちかけました。
「私たちも、あぶないんじゃな〜い?このままだと離婚だったりして」
そして、(ときには涙まじりに)感じてきたことをしっかり話しあったのでした。

その話し合いで私たちは次のことを決めました。
「このプロセスをきっかけに関係が崩壊するのではなく、強まるように心がけよう。互いを苦しめるものではなく、一緒に楽しめるものにする。それを優先順位のナンバー1にしよう」と。

夫が私の意見を聞いてくれるようになったので、私のほうも夫の意見を最後まで聴き、たとえ同意できなくても時間をとって考慮してみるようにしました。すると、「そんなの馬鹿げている」と却下した相手の意見が後に良い案だと判明することが増えてきたのです(たとえば、前述の透明な廊下や洗濯機の位置)。

気づいてみると、この日を境にすべての体験が「楽しい!」に変わっていました。

明るい方向に転換できたのは私たち両方の姿勢が変わったからですが、それを助けてくれたのが建築士のジョー・ウェルチさんでした。
(つづく)

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